言葉が出ない僕を横目に弟がシートベルトを外し運転席から飛び降りた！
　　　　　　　　兄貴！後は頼んだ！！！

4月の沖縄の海はまだ冷たさを感じる。

基地真相の調査を終え僕たち兄弟は辺野古から那覇に向かっていた。

弟：兄貴、国際通りでどうしても見たい靴があるんだけど

僕：また始まった！結局、それが本当の目的じゃないの？

弟：違うよ！でもそこにしかない靴なんだ！！少しだけ見ていい？

弟は服や靴といったものに目がない。まして限定なんて言われると衝動が抑えられなくなるタイプだ。

僕：いいけど、レンタカーの時間もあるから少しだけね。

辺野古の海で少し遊び過ぎた僕らは那覇での時間を考えていなかった。レンタカーを返し空港に行く予定だったが弟のわがままを聞くため国際通りに目的地を変えた。ただ、時間がない。靴屋にたどり着いたとしても10分が限界だ。その時間で弟が決断できるのか？一抹の不安を覚えながら車は人通りの多い繁華街へと向かっていく。

弟：この辺なんだけどな・・・あ、あった！

コインパーキングへ車を停め、駆け足で目的の靴屋を探していた。

僕：早く選んでね！時間ないよ！！

何を見て見つけたのかは知らないが、店内は狭く目立つ感じではない。琉球柄というのだろうか？派手目の生地で作られた靴が並んでいた。

弟：見て見て！めちゃかっこいい！悩むな

僕：早く！時間がない！

弟：すいません。履いてみていいですか？

僕：はぁ？もう行かないと飛行機乗れないよ！！

僕の心配をよそに店員と弟の世界が繰り広げられる。

店員：これなんてどうですか？世界に一つしかない靴なんです。

弟：じゃぁ、これも履きます。

すでに10分は過ぎた。僕の負けだ。そもそも靴屋に来てはいけなかったのだ。ちくしょー。

弟：やっぱり、また今度にします。

僕：！？

僕の不機嫌な様子を察してか弟が諦めて店を出た。

僕：ここまで来て買わないの？

弟：だって急かすんだもん。

僕：当たり前じゃん！もう飛行機乗れないよ？飛行機代もったいないし、お前だけ空港に送ってくわ！

弟：いいよ。今回は二人できた旅行だから二人で帰ろう！運転は僕がしていくよ。

車内は嫌な雰囲気が流れていた。レンタカーを返すと飛行機に間に合わない。直接、飛行場に行けば一人は飛行機に乗れる。一人だけでも飛行機に乗れたら損害は半分だ。ただ、弟のワガママでこの状況になった今、弟だけが飛行機に乗るのは申し訳ないのだろう。それなら、僕だけ帰るか・・・

車内は静まり返っていた。責任の拠り所、二人の思惑、沖縄時間・・・。旅行は決して楽しいだけじゃない。時に様々な試練を突き付けてくる。今回は無計画な僕らを戒めるため。諦めることの大切さを学ぶため。僕たちは飛行機には乗れない。

今回の旅を省みていた僕は外の風景が予想と違うことに気が付いた。ここは・・・・

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　空港！？

右に曲がると空港というところで信号が赤になり車が止まる。

僕：ど、ど、どういうこと？

言葉が出ない僕を横目に弟がシートベルトを外し運転席から飛び降りた！

弟：兄貴！後は頼んだ！！！

空港に走って行く弟を見ながら、走馬燈のように旅の思い出が流れていく。そうか、弟は諦めていなかったんだ・・・。助手席から運転席に移る、信号は青に変わり、アクセルを踏む。車を返さなきゃ。

4月の沖縄は過ごしやすい。海はまだ冷たいけれど、観光客も少ないし海は相変わらず綺麗だ。

青い空、飛行機が線を描いて飛んでいく。

2022/06/19